I am he as you are he as you are me and we are all together.
僕は彼で、君は彼で、君は僕、僕らはみんな同じなのさ。
I AM THE WALRUS / THE BEATLES
イエスが言った、「人間に食われる獅子は幸いである。そうすれば、獅子が人間になる。 そして、獅子に食われる人間は忌まわしい。そうすれば、人間が獅子になるであろう」
トマスによる福音書ーアグラファ(荒井訳1994)
菩提樹のもと悟りを得る

菩提樹は"根"である世界の本性を地上に体現している。
"神"のアナロジーとして悟りに一役買ったに違いない。
根の一本一本は個を表している。
そして根が一つのものとしてつながっている以上、死はあり得ない。
死とはこの世である。なぜなら、
隠されていて現れないものはないのだから。
死とは一人称の交代劇である
私は右拳でペノイの前歯を砕いた。ペノイはよろめきスツールの上に倒れ込んだ。
「やめろレット」ペノイはスツールの脚を掴んで半身を起こした。「レット、お前はどう思っているんだ?俺がこれからお前に始末されるとする。俺のこの意識はどうなる?」
私は腕時計を見た。夜明けまでまだ時間があった。私はペノイの問答に付き合うことにした。
「無になるだろうな」
「無?、お前は無というものについてよく考えたことがあるのか?……
俺には無というものが疑わしくてならん。俺がこれからなるというその無、それはどういうものだと想定しているんだ?……
空間もなし。時間もなし。消滅することも生成することもない。永遠不変の無だろうが?……
そして無は……完全なものであるはずだ。隅々まで一切の存在を許さない。……
……でも待て。それなら無の広がりの外に何かあるというのはおかしいじゃないか?」
「何かとはなんだ?」
「俺たち存在だ。俺たちは存在しているじゃないか?俺たちが無の外に存在しているのだとしたら、無には領域があるということになる。……
死は意識をわざわざそこまで移動させるのか?滑稽じゃないか?……
俺たちが存在する以上、一なる無は存在しない。そして存在に沿ってある無などというものは、お前たち無神論者が想定する無としては完全性を欠いているのだ」
「つまり何だと言いたいんだ?」
「無が存在しないのであるならば、世界はただ有のみであるということになる。それはこの存在が永遠であるということを意味し、俺たちが永遠にこの苦しみから抜け出せないことを意味するんだ……」
「なんだと?」
「世界は、あるのか、ないのか、いずれか一方だ、そして世界はここにある。……
死というものの真相は、視点の喪失だ。
俺たちはみんな存在の根っこで通じているのに、
精神的な痛覚を共有していないから、それがわからないんだ」
ペノイは私の脚を抱えて掬った。私が尻餅をつくや、ペノイは覆い被さってきた。
右手にアイスピックを握っているのが見えた。私はそれを取り上げようと腕を伸ばした。
俺は立ち上がり、血しぶきがコートにどの程度かかっているか確認した。これからこの姿で朝靄の中を歩いていかなければならないのだ。
喉深くまで突っ込んでやった。……血が泡立っていて見苦しいが、苦しまずには逝けただろう。
「やろうとしたのはお前なんだよ、レット。俺かお前か、どちらかが消えるしかなかった。
こうしてお前の視点は消えたが、お前はこの瞬間から俺になった
……これは幸福なことか?それは俺が幸福か否か、そして世界にとってはどうかということにかかっている」
そして、彼が言った、「この言葉の解釈を見出す者は死を味わうことがないであろう」
「……死人たちは生きないであろう、そして、生ける者たちは死なないであろう」
「……木を割りなさい。私はそこにいる。石を持ち上げなさい。そうすれば、あなたがたは私をそこに見出すであろう」
トマスによる福音書ーアグラファ(荒井訳1994)